国際サッカー連盟(FIFA)が示した2026年北中米ワールドカップのチケット方針に、世界中のサッカーファンが憤っている。21ドル(約3万ウォン)のチケットを約束していた北中米ワールドカップ招致委員会の公約は跡形もなく消えた。代わりに残ったのはスポーツ史上最も高価な入場券だけだ。
11日(現地時間)、APやロイターなど主要海外メディアは、この日FIFAが加盟協会に割り当てたワールドカップのチケット価格を正式に通知したと伝えた。FIFAは来年7月20日に米国ニュージャージーのメットライフ・スタジアムで開催される2026年ワールドカップ決勝のチケット最低価格を4185ドル(約610万ウォン)に設定した。最上位席の「カテゴリー1」は8680ドル(約1260万ウォン)に達する。2022年カタール・ワールドカップ決勝の最高額チケットが約1600ドル(約230万ウォン)だった点を踏まえると、4年で価格が5倍以上高騰したことになる。
決勝のチケット価格は、米国で資本主義スポーツイベントの極致と呼ばれるプロアメリカンフットボール(NFL)決勝の「スーパーボウル」と比べても高い。スポーツ専門メディアのジ・アスレチックの分析によると、昨年米国ニューオーリンズで開かれたスーパーボウルの一般席価格は約4500ドル(約660万ウォン)だった。ワールドカップ決勝は最低価格の時点でスーパーボウルの一般席に迫る。とりわけVIP接待パッケージではなく一般席の価格でワールドカップがスーパーボウルを上回ったのは今大会が初めてだ。ジ・アスレチックは、ワールドカップが純粋なスポーツの祭典から徹底した高収益の商業イベントへと変質した決定的な証拠だと解釈した。
FIFAは今回の北中米ワールドカップで、入場券の需要と条件に応じて販売価格が変わる「ダイナミック・プライシング(ユ動価格制)」を導入した。航空券やホテル代のように需要が集中すれば価格がリアルタイムで上がる仕組みだ。人気カードであるほど、スタジアムの席数が減るほど、価格は指数関数的に跳ね上がる。とくに5日の組み合わせ抽選会後に対戦が確定し、全104試合のうち80試合で価格が即座に上昇した。イングランドとクロアチア、スコットランドとブラジルが当たる試合は一夜にして価格が71%上がった。抽選後に価格が下がった試合は11件にとどまった。ワールドカップのチケットがもはや定価で取引される公共財ではなく、リアルタイムで相場が変動する金融商品に変質したことを示唆する。
決勝だけでなく、各国代表チームの忠誠ファン(loyal fans)を中心に観戦するグループリーグの試合価格も大幅に上がった。FIFAは試合の雰囲気を盛り上げるため、各国サッカー協会にスタジアム全座席の約8%を自国の応援団(サポーターズ)に優先配分する。ドイツサッカー協会(DFB)がこの日公開した自国配分分の価格表を見ると、グループリーグのチケットですら最低180ドル(約26万ウォン)から始まる。2022年カタール大会当時の類似グレードのチケットが70ドル(約1万ウォン)台だったのと比べると、出だしから2.5倍以上高い。
本大会に進出したチームはグループリーグで3試合を行う。その後ベスト32に進み決勝まで行くと仮定すると、ベスト32・ベスト16・準々決勝・準決勝・決勝を各1試合ずつ、計5試合をさらに戦う。イングランドサッカー協会(FA)が公開した資料によれば、自国のサッカーファンが今大会でイングランドのチームをグループリーグから決勝まで8試合すべて観戦すると仮定した場合、チケット代だけで最低7000ドル(約1015万ウォン)を支出することになる。航空券と、殺到する北米の物価を反映した宿泊費・食費をすべて除いた純粋な入場券費用だけで1000万ウォンを超える。ガーディアンは「2年前にドイツで開かれたユーロ2024当時、決勝までイングランドの全試合を観戦するのにかかった最低チケット費用は約375ユーロ(約55万ウォン)だった」とし、今大会が非常識なまでに高いと指摘した。
大韓サッカー協会(KFA)はまだ2026年本大会のチケット配分分の価格を正式発表していない。だがドイツやイングランドの事例を見るに、韓国も同程度の水準に設定される公算が大きいとされる。
FIFAは過去、開催国居住者と出場国の低所得層・若年層・学生のサッカーファンのために、上段区画の座席を「カテゴリー4」として括り、低価格で配分してきた。自国の試合を見たいが経済的に余裕がない人々のために設けられた一種の特価チケットだ。前回カタール・ワールドカップ当時、このチケット価格は約11ドル(約1万6000ウォン)だった。
今大会でFIFAは国別サポーターズ配分枠からこの低価格グレードを除外した。北中米に遠征する出場国のファンは、事実上この超低価格チケットの恩恵から完全に外された。自国の試合を観戦したいファンは、グループリーグ基準で最低180ドルから始まる配分チケットを買うか、わずかな望みに賭けて極めて限定的なカテゴリー4一般席の抽選に挑むしかない。複数のサッカーメディアは、米国・カナダ・メキシコなどの開催国と、ブラジル・アルゼンチン・イングランド・ドイツといった強豪国、ベスト32以降のトーナメントの試合でカテゴリー4座席に当選する確率は1%未満で、事実上不可能だと見立てた。
米国のスポーツ専門メディア、スポーツ・イラストレイテッド(SI)は「2018年の招致当時、北中米の招致委員会はグループリーグのチケット数十万枚を最低21ドルで供給し、『庶民型ワールドカップ』を実現するという提案書を出していた」とし、「開催国の地位を確保するやいなや約束を投げ捨てた」と述べた。
欧州のサッカーファンを代弁するフットボール・サポーターズ・ヨーロッパ(FSE)もこの日声明を出し、「今回の価格方針はワールドカップの伝統に対する前例のない背信だ」と強く批判した。FSEは「最も献身的なサポーターに不当な価格を強いている」とし、「FIFAは直ちにチケット販売を中断し、価格方針を全面的に再検討すべきだ」と訴えた。
FIFAがこうした反発を予想できなかったはずがない。それでもこの高価格方針を押し通す背景には、莫大な収益創出目標があると専門家は分析する。今大会は出場国が32カ国から48カ国に増えた。試合数だけで104試合に達する。フィナンシャル・タイムズ(FT)は、FIFAが今回の2026年ワールドカップで110億ドル(約16兆ウォン)に達する売上を上げると見込んだ。前回ワールドカップの売上76億ドル(約11兆ウォン)より40%以上伸びる数値だ。FIFAは独自の入場券再販売プラットフォームを構築し、再販売価格のうち15%を手数料として差し引く仕組みまで整えた。表向きはダフ屋撲滅を掲げるが、実際にはFIFAが直接セカンダリー市場の収益まで独占しようという意図と解される。
FIFAは報道担当者を通じて「チケット価格に関する方針は開催国(米国・カナダ・メキシコ)の主要スポーツイベント市場の慣行を反映したものだ」とし、「FIFAは非営利団体であり、収益金を世界のサッカー発展に再投資する」という原論的な立場を示した。