米国メディア業界の巨人ウォーナーブラザーズ・ディスカバリー(WBD)を手中に収めるための「マネーゲーム」に中東の国富ファンドまで参戦した。
これによりサウジアラビア・カタールなどのオイルマネーとトランプ米大統領の側近が結びついたパラマウント陣営、そしてウォール街の資本とシリコンバレーの技術力を前面に出したネットフリックス陣営の対決構図が形成された。ハリウッド史上最大の売り案件を巡り、政治権力と伝統的商業資本が衝突する様相だ。
10日(現地時間)、パラマウントを率いるデービッド・エリソン・スカイダンス最高経営責任者(CEO)は、WBDの株主に対し1株当たり30ドル、総額1080億ドル(約158兆ウォン)規模の全額現金での買収を提案したと明らかにした。これはネットフリックスが提示した830億ドル(約122兆ウォン)規模の株式・現金混合提案より約250億ドル多い金額である。
注目すべき点は資金の出所だ。パラマウント陣営にはサウジアラビア公的投資基金(PIF)、アブダビ・リマド・ホールディングス、カタール投資庁(QIA)など中東地域の三大国富ファンドが参加した。彼らは約240億ドル(約35兆ウォン)を投じて買収の資金繰りを担う。中東の国富ファンドが単一の取引で連合を形成して参戦するのは珍しい事例だ。
サウジアラビアやアラブ首長国連邦のような中東諸国は、石油依存度を下げるためエンターテインメント、観光、スポーツなどソフトパワー産業に積極的に投資している。先にサウジアラビアPIFは世界最大のビデオゲーム企業エレクトロニック・アーツ(EA)の買収を試み、中東最大のメディアグループであるMBCの持分を確保した。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビは2018年にウォーナーブラザーズのテーマパークを誘致し、「ワイルド・スピード7」「スター・ウォーズ エピソード7」「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング」といった有名映画に撮影地を提供してハリウッドとの接点を広げた。今回の投資は単なる収益追求を超え、中東をポストオイル時代のグローバル・コンテンツ拠点にするための戦略的布石である。
ここに強力な親トランプのネットワークが加勢した。トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーが運営するプライベート・エクイティ「アフィニティ・パートナーズ」は投資家として名を連ねた。さらに、エリソン・パラマウントCEOの父であり、オラクル創業者のラリー・エリソンもトランプ大統領の中核支援者だ。ラリー・エリソンはネットフリックスの買収発表直後、トランプ大統領に直接電話をかけ「ネットフリックスの独占は市場競争を損なう」と主張したとされる。
トランプ大統領も今回の取引を、常々目の上のこぶと見なしてきたCNNを処理する適切な機会と捉えている。CNNはWBDの子会社で、先にネットフリックスは政治的リスクを考慮してCNNを除外して買収する計画を発表していた。トランプは今回のディールについて「自分が関与する」と公言しつつ「CNNを台無しにした人々にこれ以上会社を任せられない」と述べた。エリソンCEOはワシントンを訪れ、トランプ政権関係者に「買収に成功したらCNNを大幅に再編する」と約束したとロイターは伝えた。パラマウントは買収に成功した場合、CNNの分離売却や経営陣交代を検討中とされる。
一方ネットフリックスは、ウォール街の大手銀行や社債市場のように政治色を排した伝統的商業資本を活用した。いわゆる「デットフリックス(Debtflix)」戦略だ。ネットフリックスはウェルズ・ファーゴ、BNPパリバなどから約590億ドル(約86兆ウォン)を短期資金の手当て方式で調達し、買収資金を用意した。ネットフリックスは世界のオンライン動画サービス(OTT)業界で首位である点と、キャッシュ創出力を前面に出してWBDの取締役会を説得したとされる。
ネットフリックスは資本力と市場論理を、パラマウントはトランプの人脈と現金動員力を武器にした。ただしパラマウントは対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を無事に通過することがカギだ。ウォーナーブラザーズのようなハリウッドの主要制作会社は、米国の文化的権力を形成する中核勢力に属する。
ハリウッドの労働界とクリエイターは、制作スタジオと報道チャンネルのCNNが外国資本、特に保守的で一般的な米国の色合いとは異なる中東の王政国家の手に渡る状況を懸念している。パラマウントもこれを意識し、中東の国富ファンドに議決権や取締役会のポストを与えない方針だと明らかにした。経営介入なしに資金のみを出すファイナンシャル・インベスター(FI)に限定し、安全保障と文化的要素に関する審査の刃を避ける算段である。
ネットフリックスは独占禁止法違反の余地が大きい。世界首位のOTTであるネットフリックスにHBOとウォーナーブラザーズのスタジオまで加われば、市場支配力が過度になる。ネットフリックスは2025年時点で世界の加入者を3億人以上保有している。ストリーミング市場のシェアは30%を超える。専門家は、ここにウォーナーブラザーズが保有するOTTのHBOマックスまで合算すれば、コンテンツと加入者基盤のシナジーが発生し、市場シェアが40%以上に拡大しうると予測した。
この場合、独占に敏感な欧州などで規制当局の審査を通過するのは容易ではない見通しだ。ネットフリックスは現在も欧州のOTT市場売上の51%を占めている。すでに過半を超えた状況でさらに加入者が加われば、今回の取引が「競合他社排除のための買収」という批判を免れにくい。パラマウントはこの点を踏まえ、ウォーナーブラザーズに送ったSEOHAN ENGINEERING & CONSTRUCTIONで「ネットフリックスとの合併は長期の規制審査により2年以上かかり得る」とし、自社の提案が規制の観点でより安全だと攻撃した。
消費者の立場ではどちらが勝っても購読料の値上げが予想される。ネットフリックスもパラマウントも、合併後はコンテンツ競争力を前面に価格を引き上げる可能性が高い。当初別々に運営していた両スタジオの制作部門が買収後に一つへ統合される過程で、全体の作品制作本数も減少すると見られる。