ドナルド・トランプ米大統領がエヌビディア(Nvidia)が開発した高性能AI(人工知能)半導体「H200」の中国向け販売を許可した。
見た目は融和策のようだが、綿密な計算に基づく「ビジネス取引」に近い。トランプ大統領は輸出許可の条件として販売代金の25%を米政府に納付するよう明確にした。いわゆる安保税(security tax)を徴収して国庫を潤し、中国企業を米国と同盟国の技術エコシステムに再び閉じ込める布石である。
トランプ大統領は9日(現地時間)にソーシャルメディアで「米政府がエヌビディアのH200チップを中国国内の『承認された顧客(approved customers)』に販売することを許可する」とし、「その代わり販売額の25%は米政府が取り上げる」と発表した。続けて、習近平中国国家主席がこの提案に「前向きに反応した」と付け加えた。
今回の輸出許可リストにエヌビディアの最新主力製品「ブラックウェル(Blackwell)」や次世代「ルービン(Rubin)」チップは挙がらなかった。トランプ大統領は「米国の顧客はすでに最新のブラックウェルチップに移行している」とし、「中国には旧型モデルのH200のみを許容して米国の技術的優位を維持する」と強調した。
米企業が使用するブラックウェルチップはH200より学習速度が1.5倍、推論速度が5倍速い。中国には時期遅れのチップを25%高く売って実利を確保し、米企業はその資金で次世代の技術格差をさらに広げるという算段である。ホワイトハウス関係者は今回の措置により米国が中国より約18カ月の技術的優位を確保すると予測した。
一方でチップを購入すべき中国の反応は鈍い。中国の規制当局は内部でH200の購入制限を検討中とされる。ファイナンシャル・タイムズ(FT)はこの日、関係者の話として「中国政府が自国企業に対しH200を購入する際、国産チップで代替不可能な理由を疎明させる案を協議中だ」と伝えた。過去の事例を踏まえると、事実上の購入禁止措置である。
米国は2022年10月から中国へのエヌビディア高性能チップの輸出を制限し始めた。2023年には低性能チップまで規制対象を広げた。トランプ政権が中国と本格的な貿易戦争を始めた今年4月には、エヌビディアが中国向けに設計したH20チップまで米政府の許可なしに輸出を禁じる措置を追加で実施した。
その後、中国は技術自立の路線を固めた。現在はファーウェイを先頭に独自AIチップの開発を加速している。米シンクタンクの進歩研究所(IFP)の報告書によると、ファーウェイが開発した最新AIアクセラレーター「Ascend 910C」の総処理性能(TPP)は1万2032で、エヌビディアH200(1万5840)比で約76%の水準に到達した。依然としてH200が先行するものの、従来の中国輸出向け低仕様チップであるH20(TPP 2368)よりファーウェイのチップがはるかに優れている。
中国政府は、アリババやテンセントのようなビッグテック企業が米国製チップに回帰すれば、ファーウェイなど自国企業が築いた半導体エコシステムが干上がりかねないとの危機感を抱いている。市場調査会社カウンターポイント・リサーチはCNBCに「中国がエヌビディアのチップに再び依存すれば、いつ断たれるか分からない『政治的な不確実性』という刃を自ら受け入れることになる」とし、「中国政府の立場では自給自足こそ唯一の長期戦略だ」と分析した。
米国内の反発も小さくない。直ちに民主党を中心に「安保を金と引き換えにした」という批判が噴出した。エリザベス・ウォーレン上院議員は今回の決定を「経済的に見ても、国家安全保障の面から見ても致命的な失敗」と位置づけた。
安全保障の専門家は中国がH200チップを軍事力増強に悪用する恐れがあると警告した。ジョージタウン大学の安全保障新技術センター(CSET)は「中国人民解放軍が高性能チップを活用してAI軍事能力を開発している」とし、高性能チップへのアクセスが容易になれば戦場での優位を中国に渡しかねないと懸念を示した。
最大の受益者になると予想されたエヌビディアも表情は複雑だ。ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は今月初め「中国がH200の購入を許すか全く分からない」と吐露した。中国市場の不確実性がそれだけ大きいことの証左である。
エヌビディアは現在の業績見通しで中国のデータセンター売上高を事実上「0」としている。一部の専門家は、ソフトウエアとハードウエアを入れ替える費用と時間、そして再び制裁が科されるかもしれないというリスクを考えると、中国企業にとってもエヌビディア製チップの利用は容易ではないと分析した。