欧州の最前線に位置するバルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)が、ロシアの継続的な脅威とウクライナ戦争の長期化の中で、事実上の準戦時体制に移行しつつある。住民は日常の中で戦争の可能性に備える一方、政府不信や経済的打撃などによる複合的な困難を訴えている様相だ。
8日(現地時間)ブルームバーグによると、バルト3国は最近、緊張感が高まる中で軍事・経済・社会の全般で戦時体制の準備を進めている。これらの国々はロシア・ベラルーシと約1000㎞に及ぶ国境を接しており、NATO(北大西洋条約機構)の最前線とされる。NATOをはじめ各種シンクタンクがこれらの国家を「次の戦争の発火点」として頻繁に名指しする理由である。
とりわけエストニア北東部の国境都市ナルヴァは、最近の戦争シナリオで最も頻繁に言及される紛争可能地域の一つだ。ロシアと国境を接し、住民の大半がロシア語を使用しているためである。例えば、ロシア側のリトルグリーンマン(little green man、所属を判別できないよう顔を隠した兵士)が国境を越えてこの地域で混乱を引き起こす侵攻シナリオは、「ナルヴァ・ネクスト(Narva Next)」という別称が付くほど繰り返し議論されてきた。
実際にナルヴァの街全体には極度の緊張感が漂っている。ロシアのイヴァンゴロドにつながる道路「友情の橋(Friendship Bridge)」はコンクリート障害物と鉄条網・錠で封鎖され、国境が統制される中、車両に代わり歩行者だけが狭い金属通路で区間を行き来している。カトリ・ライク・ナルヴァ市長は「住民は互いに、さらには政府に対しても疑念を抱く雰囲気だ」と吐露した。
ラトビア東部アルクスネも同様の状況だ。この地域はロシア国境から20㎞余り離れており、特に旧ソ連時代のミサイル基地の痕跡が森に残骸として残るなど、戦争の爪痕が深く残っているためである。町の至る所にウクライナ国旗が掲げられ、ジンタラス・アドレルス市長は「東の状況を毎日注視している」と明らかにした。
リトアニアもまた侵攻リスクの高い地域に分類される。首都ビリニュスは親ロシア志向のベラルーシから約30㎞しか離れておらず、国境の向こうにはロシア国営企業ロスアトムが建設したアストラヴェツ原発が位置しているためだ。一部では民間による民防訓練の要領を教える講義が行われるほどである.
これを受け、リトアニア政府は全面侵攻を想定した大規模訓練を定例化している。非常食・常備薬を入れた「72時間サバイバルバッグ」の準備はすでに日常的な推奨事項であり、市民を対象にしたサイレン訓練と緊急放送テストも繰り返されている。先だってビリニュス市当局は10月にロシア侵攻を想定した全面避難訓練を実施し、軍の防護下で市民が実際の避難経路に沿って移動する訓練も行った。
ただし専門家は、物理的な備えに加え、国家内部の結束力と政府への信頼度を高める取り組みを並行すべきだとみている。実際に一部の都市ではロシア系住民比率が高くロシア語使用が日常化しているうえ、10年以上にわたりロシア発のサイバー攻撃とプロパガンダ活動が続いたことで、「クレムリンと内通する勢力がいる」という不信が根深く残っているためだ。
イングリダ・シモニーテ前リトアニア首相は、政府が継続的に市民へ警告のメッセージを発信すべきだと主張した。シモニーテ前首相は「夏の夕べにカクテルを飲む人々の間で戦争の話題は一言も出ないだろう」としつつも、「政府は国民に『危機は現実であり備えなければならない』という認識を植え付けるべきだ」と強調した。