ドナルド・トランプ米国大統領が米中貿易摩擦の余波で経済的打撃を受けた米国農家に対し、総額120億ドル（約17兆6,300億ウォン）規模の緊急支援パッケージを発表した。
この資金はトランプ政権が新たに課した関税収入で賄う。ホワイトハウスは、今回の支援が貿易戦争で悪化した米国農家の資金繰りを和らげる「橋渡し（bridge）」の役割を果たすと説明した。
トランプ大統領は8日（現地時間）にホワイトハウスで財務長官および農務長官らとともに農業関連の円卓会議を開き、支援策を公式化した。農務省（USDA）が新たに設計した支援策の名称は「農家ブリッジ支援プログラム（Farmer Bridge Assistance Program、FBA）」である。
支援金120億ドルのうち最大110億ドル（約16兆1,600億ウォン）は、大豆、トウモロコシ、小麦、綿花、ソルガム、コメ、ジャガイモなど主要畑作物（row crops）の栽培農家と畜産農家に一時金として直接給付する。残りの10億ドル（約1兆4,700億ウォン）は、特用作物（specialty crops）栽培農家など今回のプログラム対象から外れた分野の支援に充てる。
農務省は農家が来年の営農計画を確実に立てられるよう、支援の時期を明確にした。ブルック・ローリンス農務長官は同日の会議で「米国の多くの農家が生涯経験したことのない危機に直面している」と述べ、「2026年2月28日までに資金が農家に流れ込むよう措置する」と語った。
トランプ大統領は今回の支援策の財源を輸入品に課した関税収入で賄ったと付け加えた。トランプ大統領は「米国が徴収する数千億ドル規模の関税収入の一部を取り分けて農家を支援する」とし、「関税がなければこの資金もなかった」と強調した。トランプ流の保護貿易政策のために農家が被害を受けたのではなく、財源になったことを強調しようとする意図だと専門家は評価した。
今年、トランプ第2期政権の発足後に米中貿易摩擦が再燃し、中国は事実上、米国産大豆の購入を停止した。中国は米国産大豆輸出量の約半分を引き受ける最大の輸入国だった。APによると、米国の農家はすでに2022年から続く農産物価格の下落と、肥料・機械など生産コストの上昇で苦境にあった。そこに中国向け輸出の道まで断たれ、米国の農家は相当な経済的圧迫を受けた。
米国農業局連盟（AFBF）によると、米国の農家のうち半数以上が今年は赤字を計上した。これらの農家は生計のため農業外所得（off-farm income）に依存せざるを得なかった。ワシントン・ポスト（WP）は「中国は米国農産物の最大の国際的消費者だった」とし、「中国による輸入停止は米国農業界にとって痛みを伴う打撃（painful blow）だった」と伝えた。
今回の支援金総額120億ドルは、今年の米国農家の損失額340億ドルに比べて3分の1程度である。AFBFは、今年米国で9つの主要作物を栽培する農家が記録した合算損失額が340億ドル（約50兆ウォン）を超えると見込んだ。トウモロコシ農家は150億ドル以上、大豆農家は67億ドル、小麦栽培農家は58億ドルの損失になるとAFBFは推定した。
今回の支援策は、来年11月に実施される中間選挙を前に、伝統的に共和党の中核支持基盤に当たるファームベルト（中西部農業地帯）の票をつなぎとめる政治的布石と解釈される。ロイターは今回の措置を「財政的に打撃を受けた中核の政治的支持基盤を維持するための政権の努力」だと評価した。
スコット・ベセント財務長官はCBSのインタビューで、今回の支援金は農家が来年の作付けに向けた資金調達と計画立案を助ける「橋渡し（bridge）」の役割を果たすと強調した。農業は収穫までに長い時間を要する「将来志向の産業」であるため、貿易摩擦という外部ショックから農家の経済的連続性を守るべきだという論理である。
トランプ大統領は、在任1期目だった2018年に米中貿易戦争が激化した当時にも、農産物市場促進プログラム（Market Facilitation Program）の名で農家を支援した。総支援金は280億ドル（約41兆ウォン）で、今回はその2倍以上の規模だった。この資金は農家の財務状態を一時的に改善したが、中国が米国に代わりブラジルなどに大豆の輸入先を多角化する契機となった。
米国農業局連盟（AFBF）で公共政策・経済分析を担当する副社長のジョン・ニュートンはAPに対し「農村には経済的支援が喫緊に必要だ」としつつも、「120億ドルの支援金は農家に蓄積した経済的損失のごく一部にすぎない」と述べた。AFBFは、政府支援に依存するよりも、農作物販売による利益創出が根本的な目標だと強調した。
米国の農家は支援策の発表を前に、中国との貿易休戦ムードが醸成された点に期待感を示した。ニューヨーク・タイムズ（NYT）によると、中国は10月末の貿易休戦合意で、年末までに米国産大豆を少なくとも1,200万トン（metric tons）購入し、今後3年間は毎年少なくとも2,500万トンを買い付けることで合意したとされる。
トランプ大統領は会談を終え、「中国が400億ドル（約58兆7,000億ウォン）を超える米国産大豆を購入すると約束した」とし、「（習近平中国国家主席に）それ以上も可能かと尋ね、そうなると見ている」と述べた。2,500万トンは、貿易戦争以前に中国が米国から輸入していた2,500万〜3,000万トンとほぼ同じ量である.
ただ、一部では今回の支援策が「病を与えて薬を与える」式の処方だとの批判を免れないと指摘した。米国が自ら貿易戦争を引き起こして農家を窮地に追い込み、再び巨額の公金を投じて手柄顔をする格好だという主張である。
アクシオスは農業専門家の話として、「今回の支援策は貿易政策の短期的な副作用を最小化し、中核支持層の離反を防ぐ試みだ」とし、「中間選挙の行方は、中国が10月に約束した通り大豆を購入するかどうかと、トランプ大統領が公言した農機の環境規制緩和といった後続措置に左右される」と伝えた。