少なくとも146人（1日午前3時時点）の命を奪った香港のアパート火災の原因として指摘された「大竹の足場（作業用の足場・bamboo scaffolding）」をめぐり、香港社会が激しい論争に包まれている。
大竹の足場は中国の伝統建築史で1000年以上受け継がれてきた技術である。香港とマカオでいずれも無形文化遺産に登録され、都市の象徴として現地住民と観光客に愛されてきた。
しかし最悪の人的被害を生んだ今回の火災惨事の火付け役として建物外壁に設置していた大竹の足場が指摘され、今後香港の建築工事現場で大竹の足場は急速に姿を消す見通しだ。
一部の専門家と市民は、香港政府が事故の焦点を大竹の足場に合わせ、不十分な工事管理に対する責任を回避していると指摘した。性急に行われた大竹の足場の排除発表も、中国中央政府（CCP）が進めてきた「香港色彩消し」の延長線上にあるとの分析が力を得た。
30日サウスチャイナ・モーニング・ポスト（SCMP）などによると、香港の消防当局は火災原因として建物外壁に設置された大竹の足場とナイロン保護網、そして断熱材として使われた発泡スチロール板を指摘した。エリック・チャン香港政務長官は「大竹の足場は火に弱い」と述べ、金属足場への全面的な交換を迅速に進める方針を明らかにした。
しかし香港独立汚職防止委員会（ICAC）と警察の捜査結果によれば、惨事の規模を拡大させた決定的要因は基準未満の建築資材の可燃性と建物管理の不備だという見方が優勢だ。
オーストラリア連邦科学産業研究機構（CSIRO）の火災安全エンジニアであるアレックス・ウェブは英インディペンデントに「大竹そのものよりも、大竹を覆ったプラスチック被覆と可燃性の高い部品が連鎖反応を起こし、火災が発生したはずだ」と分析した。
火災発生直後、香港警察は施工会社関係者、エンジニアリングコンサルタント、足場の下請け業者など計11人を逮捕した。これらの人物は収賄、安全規定違反、業務上過失致死の容疑を受けている。
香港政務部と異なり、香港治安当局は火災拡大の主犯として大竹ではなく発泡スチロール断熱材を指摘した。香港保安局長クリス・タンは「窓周辺に無断で設置した高可燃性の発泡スチロール板が、火災の強度と拡大速度を急激に高めた」と述べた。
ロイターによると、このアパートの住民はすでに昨年9月から担当部署に、ナイロン保護網とフォームボードが火災発生時に問題となり得ると警告していた。香港の関係当局も今年11月までに16回も現場点検に出向いた。しかし繰り返しの点検にもかかわらず、安全規定違反3件を摘発し、罰金3万香港ドル（約500万円）を科すにとどまった。当局はさらに「工事に使うナイロン安全網には防炎基準がない」という公式見解を示し、火災責任をめぐる論争を拡大させた。
香港政府が高可燃性の発泡スチロール板と管理不備への責任を問う代わりに大竹の足場の排除を急ぐと、香港市民はこの措置が中国中央政府の「香港色彩希釈戦略」の一環だと解釈した。
大竹の足場は香港の高温多湿の気候と狭い都心環境に最適化された建築技術である。金属足場は錆びやすいが、大竹は湿気に強い。大竹は設置速度が金属足場より6倍以上速く、費用は半分水準だ。台風にも柔軟に耐える。香港建設産業総連合（HKCIEGU）のチャウ・ス・キット委員長はSCMPに「大竹の足場は香港建築界の熟練した技術を象徴する」と強調した。
中国中央政府と香港当局はこれまで、安全と効率、国家統合を名分として、香港が誇ってきた伝統的要素を段階的に除去してきた。
1980〜1990年代に香港映画を象徴した華やかなネオンサイン看板は、2010年の建物条例の強化と2013年の違法看板検証制度の施行以降、大量に撤去された。安全認証未達の看板が数万点撤去され、いまや香港を象徴した華やかな夜景は消え、他国と大差ないLED看板がその座を占めた。
香港文化を代弁してきた広東語も徐々に姿を消しつつある。1999年、香港教育局は授業言語を広東語から普通話（プートンファ）へ転換することを決定した。その後、中国中央政府は普通話授業を行う学校に財政支援を集中させる方式で、香港における広東語の地位を非標準方言へと引き下げた。
大竹の足場も今回の火災以前に、公共工事の新規契約時には少なくとも50%を金属足場の義務導入とするよう指示していた。
SOASロンドン大中国研究所長のスティーブ・チャン教授はワシントン・ポストに「香港政府が大竹の足場を非難するのは極めて愚かなことだ」と述べ、「これは政府が火災の実際の原因に向き合うより、関心をそらそうとしている印象を与えるだけだ」と語った。
今回の惨事をめぐり、香港市民は憤っている。30日の一日だけで惨事現場近くには1000人を超える追悼の人波が押し寄せた。人々は政府の安全管理不備と施工会社の不正疑惑に対する独立かつ透明な真相調査を求めた。
香港の大学生マイルズ・クワンを中心とした政府責任を問うオンライン請願には、1日で1万人を超える市民が署名した。署名を主導したマイルズ・クワンは「今日の香港が内側から外側まで穴だらけである事実を率直に語らなければならない」と主張し、30日に香港警察に「扇動」の容疑で逮捕された。
中国中央政府もまた、今回の火災惨事が2019年に香港で大規模に起きた反政府デモの形へと拡散するのではないかと極度に懸念している。中国国家安全部は声明を出し、「反中勢力がこの災難を利用して香港を攪乱しようとするなら、国家安全法（NSL）および国家安全守護条例に基づき厳重に処罰する」と警告した。