米国や英国、ドイツといった西側はもちろん、中国を含む世界各国の食卓にビーフフレーション(beef-flation)への恐怖が押し寄せている。気候危機、75年ぶりの供給崩壊、政治的要素が絡み合い、世界の牛肉価格を制御不能の状態に追い込んでいる。米国はもとより、豪州やブラジルのように牛肉生産で知られる国々でも牛肉価格は猛然と上昇している。
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、15日(現地時間)に米国で生体牛のと畜場取引価格は1年で30%上昇した。と畜場価格は牛1頭全体(枝肉)の価格である。ここで各部位ごとに分けられる。
米国人がバーベキュー用として主に求めるブリスケット(肩バラ・ブリスケット)部位は、昨年の1ポンド当たり3ドルから今年は5ドル50セントへと83%以上急騰した。料理の各所に使われるひき肉(ground beef)の平均小売価格は1年で13%上がった。全体のインフレ率(約3%)を大きく上回る。WSJは専門家の話として「牛肉はバナナ、コーヒーなど主要食料品とともに、米国内の生活コスト上昇の主因として挙げられている」と伝えた。
牛肉価格の上昇は今年で終わらない。米農務省(USDA)は今年下半期と来年の牛肉価格見通しを最大9%引き上げた。とりわけ人気部位に当たるロイン(等級上位)価格が過去最高を更新すると予測した。
欧州と英国も同様だ。英国農業園芸開発委員会の市場報告によると、英国で生体牛のと畜場取引価格は年初比で34.5%上昇した。小売チャネルの販売価格は部位によって今年最大39%上がった。
米国に次ぐ世界第2の牛肉生産国ブラジルでも、今年上半期の輸出価格が22%急騰した。内需市場の販売価格が上がり、輸出価格も連動して上昇した。米国とブラジルに続く中国も、牛肉輸入量が今年上半期に前年より24%も急増し、世界的な価格上昇に拍車をかけている。
不気味な見通しは具体的な数値で裏付けられる。世界4位の牛肉生産国である豪州では、著名アナリストのサイモン・クイルティが「豪州の牛肉価格は来年10月までに現在の2倍に跳ね上がる」と予測した。
核心の原因は記録的な供給崩壊だ。飼育頭数が減り、牛肉の供給そのものが崩れている。CNBCによると、今年の米国内の牛飼養頭数は75年ぶりの低水準に落ち込んだ。米農務省は、今年の米国の牛在庫が1951年以降の最低である8600万頭まで減少すると見ている。およそ75年ぶりの最悪の供給難である。
通常、食肉目的で牛1頭を育てるには約18〜30カ月かかる。市中で牛肉価格が急速に上がると、農場経営者は若い雌牛(heifer)をと畜場に送る代わりに繁殖用として手元に残す。安定供給のために群れを再建し、子を産める雌牛をできるだけ長く保有する経営手法である。これは長期的には飼養頭数の回復に有効だが、短期的には市場に出回る質の高い牛肉の供給速度を遅らせる。
ダレル・ピール・オクラホマ州立大学経済学教授は「群れの再建は長く緩慢な過程だ」と述べ、「牛の生物学的な繁殖サイクルを勘案すると、来年はもちろん2027年でも牛肉生産量が増える可能性はほとんどない」と見通した。牛肉供給の正常化は2028年〜2029年になってようやく可能だとする暗い診断である。
ここに数年続く極端な天候変化が加わり、世界の牛飼養基盤を揺さぶった。極端な天候変化は、飼育コストの主な部分を占める飼料代や、かんがいなどのための農機利用コストに直接的な負担を与える。英国スカイニュースはバルセロナ・スーパーコンピューティング・センターを引用し、「トウモロコシのような作物と異なり、家畜は気候ショックからの回復速度が遅く、と畜などの処理施設を考慮すると、生産地を需要地から遠くへ移すことが難しい」とし、「気候危機は一過性の被害を超えて、牛肉サプライチェーンに構造的な脆弱性を生んだ」と伝えた。