欧州の主要船会社がスエズ運河への復帰に動き始めている。スエズ運河は地中海と紅海を結ぶエジプトの運河である。アフリカ大陸を迂回せずにアジア〜欧州の輸送を可能にする物流の要衝だ。
海運業界は紅海情勢以降、喜望峰航路に迂回してトンマイル(Ton-mile・貨物重量と移動距離を掛け合わせた値)を増やし、供給過剰を緩和してきた。スエズ運河への本格復帰が進めば運賃の急落が起こり得るとの見方が出ている。
15日、海運業界によると、7日にフランス船社CMA CGMの1万8000TEU級(1TEU=20フィートコンテナ1個)超大型コンテナ船ベンジャミン・フランクリン号がスエズ運河を経てアデン湾まで抜けた。
イエメンのフーシ派がイスラエル関連船舶への攻撃を開始した2023年10月以降、大型コンテナ船がスエズ運河を通過したのは今回が初めてだ。欧州とアジアの船社が属する海運アライアンスが運用する船舶の中でも、初めてスエズ運河に復帰した事例でもある。
CMA CGMの別の1万8000TEU級コンテナ船であるチョンハ号もスエズ運河を通過してアジアへ向かう予定で、1万6000TEU級コンテナ船のジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)号もスエズ運河を経て欧州に復帰する予定だ。
船社の復帰でスエズ運河は一息ついた。スエズ運河庁は通行量を引き上げるため5月から通行料15%割引などの政策を実施したが、大型船の復帰は限定的な状況だった。
しかし先月10日にイスラエルとハマスが第1段階の停戦で合意するなど地域の緊張感が和らぐと、船社が復帰に向け試験運航などを進めている。
スエズ運河庁によると先月は紅海危機の開始以降、月次で最多となる229隻の船舶が復帰した。ここにはCMA CGM、MSCなど欧州船社の船舶が含まれるとされる。
紅海情勢以前、スエズ運河には1日平均70〜80隻の船舶が行き来していた。現在は30〜35隻水準まで落ち込んでいる。
海運業界ではスエズ運河の通行量はまだ紅海情勢以前の水準を大きく下回るものの、主要船社の本格復帰が進む場合、運賃の下落傾向を加速させるとの見通しが出ている。
アジア〜欧州航路は通常36〜39日を運航する。喜望峰に迂回すると運航日数は最大44〜49日に延びる。その分コンテナ船が運べる貨物が減ることになり、業界ではトンマイルが約11%程度増える効果があると分析している。
このためスエズ運河の通行が本格化すれば、アジア〜欧州航路の船腹量(船舶が積載できる貨物の総量)が急増し、現在も下落基調にある運賃に悪影響を与えざるを得ない。
7日の上海コンテナ指数(SCFI)基準の欧州航路運賃は1TEU当たり1323ドルで、直前週比2%下落した。これは前年同期間の運賃(2541ドル)と比べると48%も下落した水準だ。
欧州航路の運賃が急落すれば、韓国の遠洋船社であるHMMの業績にも悪影響を及ぼす。HMMの今年上半期の売上高に占める欧州航路の比率は35%だった。取扱量ベースでも全体の29%が欧州航路だ。
ただし、フーシ派側が警戒態勢を維持するとした点など地域の緊張感は依然残っておりリスク要因があるうえ、保険料なども高く、船社がスエズ運河に全面復帰するまでには時間を要するとの見方も出ている。
ある業界関係者は「船社がすぐにスエズ運河へ航路を切り替えるのは難しいが、欧州船社を中心に復帰を試みている状況だ」とし、「スエズ運河周辺の状況が安定化すれば、船社の立場では燃料費はもちろん、炭素排出に対する負担なども軽減でき、多くの船隊が復帰するだろう。これは運賃の下落につながり得る」と述べた。